2013年5月21日火曜日

GPS ログの比較(その3)

 数回前に GPS ログの比較(その2) というのを書いた。 今回はその続編。
また,この続きとしてGPS, GNSS ロガーの比較(その1):GPS ログの比較(その4) というのを書いた。
 今回も比較するログは,Transystem 社製の TripMate 850,Adafruit 社が販売している Ultimate GPS unit,GARMIN 社製のポータブルナビ nüvi 3770V である。 今回比較してみようと思ったのは,2013年現在の TripMate 850 のログが以前に比べていまいちだからである。 TripMate 850 のログは以前はもっと道をフォローしていたような気がしていた。 2年ほど前はログを見ても特にひどいとは思わなかったのだが,最近はどうも違っている。 そう思ったのは,GPS ログの比較(その2) を書いた時だった。 前回は3種類のロガーのログを比較したかったのだが,TripMate850 のログが以前にないほどひどいことに気づいた。 しかし,同じ道を走っていないので直接以前のログと比較してもいまいちはっきりしない。 そこで,以前のログと比較でき,かつ,ある程度ログが暴れそうな道を選んで走ってみたのが今回の比較である。 比較すべき過去のログとしては,2011年6月に走った国道371号線のログと,同じく2011年7月に走った国道168号線のログを選んだ。 選んだ理由は共に山の中を走り,GPS 衛星の電波を捕捉しにくそうな箇所があるから,である。

 前回も書いたが,念のために3種類のロガーについて書こう。 1つ目は Transystem 社製の TripMate 850 である。 心臓部に MediaTek 社の MT3329 チップセットを使っている GPS ロガーで,小さな液晶表示がある。 2つ目は Adafruit 社が販売している Ultimate GPS unitである。 これは MediaTek 社の MT3339 チップセットを心臓部に持つ GPS 受信ユニットであり,シリアル通信でログを吐くので,適当な記録装置があれば GPS ロガーとして使える。 これは GPS 衛星だけでなく,日本の準天頂衛星システム(Quasi-Zenith Satellite System、QZSS)の衛星である「みちびき」の電波を受信でき,さらに,静止衛星を使った補正 (SBAS) の WAAS (USA), EGNOS (EUROPE), MSAS (日本) も使える 少し前に GPS ロガーを作ってみよう〜♪ という投稿を書いているので,詳しいことはそちらを見てほしい。 最後は GARMIN 社製のポータブルナビ nüvi 3770V である。 心臓部のチップセットは不明だが,GPS 衛星を捕捉する能力には定評がある GARMIN 社製である。 これも「みちびき」の電波を受信できる。 ナビなので液晶ディスプレイがあり,地図とセットで現在位置を表示してくれるので,知らない土地を走る時には心強い仲間である。 バイクへのマウントについては数回にわたって投稿を書いた。 具体的なことに関しては,一連の投稿の最後の投稿バイクにナビ作戦(その5):AQUA BOX による防水化 からさかのぼってみてほしい。

 今回も3種類の GPS ロガーを持って,紀伊半島にツーリングに行ってきた。 国道371号線と国道168号線のログを比較するために,国道371号線の酷道区間を走り,国道168号線を走って帰ってきた。 どのようなルートだったかはツーリングの記録で写真を見てみてほしい。地図上のルートは今回のルートマップで見ることができる。 TripMate 850Adafruit Ultimate GPS unit はそれぞれツーリングジャケットの胸ポケットと,バイクにつけている小さなバッグに入れておいた。 いずれもアンテナ部が上を向くように配置しておいた。 今回もログをポイントを絞って比較してみる。 それぞれのログは,適当な処理を施して Google Maps に表示できるようにした。 いずれも点の数が多いので,適当に間引く処理を行なっている。 ここではそれぞれのルートマップへのリンクは省略している。

(1) 国道371号線の高野山付近
TripMate850 2011年TripMate850 2013年Adafruit 2013年
国道371号線・和歌山県高野山町
 今回の比較では 2011年と 2013年の違いがはっきりと出た箇所である。2011年の TripMate 850 はかなりきれいに道をフォローしている。 しかし,2013年の TripMate 850 のログになるとかなり精度がかなり落ちている。 これを見ると,経年劣化など TripMate 850 だけの問題かと思ったが, Adafruit Ultimate GPS unit のログも2011年の TripMate 850 より精度が悪い。 ただ,Adafruit Ultimate GPS unit の場合は横に平行移動してしまっている感じなのに対し, 2013年の TripMate 850 はかなり暴れている,という違いはあるが…。 捕捉していた GPS 衛星の数は,2011年の TripMate 850 が 6~7 個で安定していたのに対し, 2013年の TripMate 850 は 3~6 個でバラつき,Adafruit Ultimate GPS unit も 5~8 個でバラついていた。 この事から,どうやら 2011 年の方が 2013 年よりも GPS の位置精度がよかったようにみえる。
 ちなみに,Garmin nüvi 3770V は何故かこの区間ではログを残していなかった。 いつもは何もしなくてもログを全区間で残してくれるのだが,今回なぜそんな事になったのかは不明である。

(2) 高野龍神スカイライン護摩壇山付近
TripMate850 2011年TripMate850 2013年Adafruit 2013年
高野龍神スカイライン・護摩壇山付近
 次は高野龍神スカイラインの護摩壇山付近である。 この区間も Garmin nüvi 3770V はログを残していない。 ここも 2011年の TripMate 850 はかなりきれいに道をフォローしているが, 2013年の TripMate 850 のログは精度が悪い結果となっている。 Adafruit Ultimate GPS unit は結構いいログを残しているが,精度は 2011年の TripMate 850 の方がいい。 程度の違いはあるが,やはり 2011 年の方が 2013 年よりも GPS の位置精度がよかったように思える。

(3) 国道371号線串本近く
TripMate850 2011年TripMate850 2013年Adafruit 2013年Garmin 2013年
国道371号線・串本付近
 この区間では Garmin nüvi 3770V もログを残している。 2013年の3種類のログを比較すると,Garmin nüvi 3770V が最もよい。 ついで Adafruit Ultimate GPS unit であり,TripMate 850 が一番精度が劣る。 これは,アンテナの性能や,日本の準天頂衛星「みちびき」の電波を受信できるかどうか,などが影響しているように思える。 しかし,2011年のログと比較すると,2013年で一番いい Garmin nüvi 3770V よりも,2011年の TripMate 850 の方がよい結果となっている。 今まで見てきた2箇所でもそうだったが,やはり 2011年当時の方が 2013年現在よりも GPS による位置決めの精度が良かった,と言うことができる。

(4) 国道168号線大塔付近
TripMate850 2011年TripMate850 2013年Adafruit 2013年Garmin 2013年
国道168号線西野トンネル北側
 この区間は国道168号線の天辻峠を挟んだ区間である。 左端の 2011年の TripMate 850 に青と赤の線があるのは,2回分のログを載せているためである。 また,4つの地図の下の端でルートが異なっているのは,2011年と2013年で国道168号線のルートが微妙に異なっているためである。 この区間のログ比較で注目して欲しいのは,地図の上から 1/4 程度付近にある西野トンネルの北側である。 「五條市」と書いてある左辺りである。 このルート図はいずれも地図の下(南)から来て,地図の上(北)の方へと走った際のログである。 左端の 2011年の TripMate 850 は,上から 1/4 の所にある西野トンネルを出てすぐに衛星を捕捉しているが, 他の3枚(いずれも 2013年のログ)は,西野トンネルを出て少ししてから衛星を捕捉している。 GPS 用の衛星は基本的に常に移動しているので,タイミングによって「たまたま」衛星の場所が良くなかっただけかもしれないが, この例を見ても,やはり 2011年の方が 2013年現在よりも GPS 衛星の電波の調子が良かったと言えそうである。

(5) 和歌山県道44号線の新宮市熊野川町鎌塚付近
TripMate850 2013年Adafruit 2013年Garmin 2013年
和歌山県道44号線の新宮市熊野川町鎌塚付近
 最後に,3種類の機器のログの比較を載せよう。 この区間は和歌山県道44号線走行時のログであり,2011年のデータはない。 従って,全て2013年に走った際のログであり,同時にログを記録した3種類の機器の比較となっている。 前回や今回のログの比較から,TripMate 850Adafruit Ultimate GPS unitGarmin nüvi 3770V のログとしては, Garmin nüvi 3770V が最も精度よく,ついで Adafruit Ultimate GPS unit,最後が TripMate 850 となっている。 しかし,時々 Garmin nüvi 3770V だけうまく GPS 衛星を捕捉できない時がある。 この区間もその例である。 この区間の中央少し下の部分で,Garmin nüvi 3770V は衛星を見失って,ログは右往左往している。 Garmin nüvi 3770V はナビとして走行中も見ていたのだが, この区間では,ふと見るとナビは道路のない山の中をうろちょろしていた。 前回のログ比較でも,時々 Garmin nüvi 3770V だけログが悪い例があった。 Adafruit のフォーラムで誰かが書いていたのだが,Garmin nüvi 3770V はアクティブアンテナを使っているらしい。 もしかしたら,そのおかげで通常は一番精度よくログを記録できるのかもしれない。 しかし,何かのキッカケで一度 GPS 衛星を見失うと,完全にロストしてしまうことがあるみたい。 場所としては,杉の木がしげる山の中の狭路だったので,電波状況は一般にいいとは言えない区間である。 Garmin nüvi 3770V の挙動としてはかなり気になる例である。

 まとめると,今回も全般的には3種類の機器の比較では Garmin nüvi 3770V が最も精度よく,ついで Adafruit Ultimate GPS unitTripMate 850 が一番精度が悪かった。 しかし,2013年現在で一番いい Garmin nüvi 3770V よりも,2011年時点での TripMate 850 の残したログの方が精度がよかった。 その結果,今年私が感じていた,以前よりも GPS ロガーの残すログの精度が悪い,という現象が実際に起こっている,と考えられる。 もし,TripMate 850 だけが精度が落ちたのなら,TripMate 850 の経年劣化が原因と考えられるが, Adafruit Ultimate GPS unitGarmin nüvi 3770V のログも 2011年の TripMate 850 のログより精度が劣っているため, GPS 衛星の電波の様子が良くない,と言っていいであろう。 GPS 衛星の電波が良くない原因としては,太陽フレアの影響があるかもしれない。 太陽の活動は11年周期と言われており,2013年現在は活動が活発な期間に入っているらしい。 太陽の活動が活発だと,太陽フレアの発生頻度が増え,発生する太陽フレアの大きさも大きめになるらしい。 太陽フレアが発生すると,放射線や電磁波を多く放出するため,無線や GPS の精度に影響を及ぼすと言われている。 今回も 2013年5月13日頃に立て続けに巨大な太陽フレアが発生したらしい。 もしかすると,この太陽フレアの影響で GPS の精度が落ちているのかもしれない。 別の理由としていは,GPS 衛星は24機以上ある衛星が古くなり,性能が劣化しつつある,のかもしれない。 GPS 衛星の寿命は当初 7年程度だったらしい(全て Wikipedia からの情報)。 そのため,頻繁に新しい衛星を打ち上げているらしいのだが,予算や開発の問題から,ここ数年は多少厳しい状況にあるという噂もある。 もしかしたらその辺りのことで,衛星からの電波が十分に受信できる状況にないのかも,しれない…。 原理的には地球上のあらゆる場所で常時6個以上の衛星の電波を受信可能らしいのだが, 日本だから受信できる衛星の数が少ない,ということはないのだろうか…(多分そんなことはないはずだが…)。 まぁ,この辺りになるとかなり元情報の信頼度や,私の理解度に不安があるので,何が原因か,というのはちょっとむずかしい。 やはり,GPS (USA) 以外にも GLONASS (ロシア) や,Galileo (Europe), QZSS (日本) の衛星の電波を捕捉できるという GNSS レシーバーを搭載したロガーと比較してみたい。 そのためにはまた紀伊半島を走らないといけないなぁ…。

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